【前編】仮想通貨市場規制と今後:金融活動作業部会(FATF)の動向を読み解く

7/21〜7/22にかけて開催された20カ国・地域(G 20)財務相・中央銀行総裁会議では、仮想通貨市場に多大な影響を与える動向は確認されませんでした。しかし、7/23に発表された共同声明では、金融活動作業部会(FATF)の規制基準が仮想通貨市場に適用されるか否かを今年10月に明示させるとの意向が示されていました。

本稿では2回に渡り、①FATFの推奨するマネーロンダリング防止(AML)・テロ資金供与対策(CFT)・大量破壊兵器の拡散対策(Counter Proliferation Financing—以降、本稿では頭文字をとり「CPF」とします)に関する規制基準を記す「The FATF Recommendations」、②2015年6月に発行された仮想通貨市場に対する規制方針「Guidance for a Risk-Based Approach: Virtual Currencies」、③今年7月のG 20に先駆けて発行されたFATFの仮想通貨市場に関する報告書「FATF Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governors」の3文書それぞれの重要ポイントを解説し、今年10月以降の規制動向を予想します。

第1回目の今回は、FATFの概要と「The FATF Recommendations」の重要ポイントを取り上げ、なぜ現在の仮想通貨市場において国際的な規制の足並みにばらつきが生まれたのか考察していきます。

FATFと「The FATF Recommendations」概要

FATFは1989年に7カ国・地域(G7)財務相・中央銀行総裁の命を受けて発足された政府間組織で、主にマネーロンダリングやテロ資金供与などの国際金融システムへの脅威に対する予防策や規制を提案する組織で、数ある基準設定団体(SSB)の一つです。

2018年現在、FATFは合計37の国と組織から成ります。メンバーはFATFが推奨する最新の提案を承認・指示する義務(法的拘束力はない)があり、メンバー間でお互いがその提案に沿った政策を実行しているか評価し、将来の提案作成を協力して行うことが求められます。

1990年にFATFが初めて発表したAML、CFT、CPFなどに関する規制の提案書、「The FATF Recommendations」は、その後数回にわたり改訂が施され、現在はメンバー間での規制協力を円滑化する重要な規制指標として認められています。

こちらの「The FATF Recommendations」は計40の提案事項が盛り込まれており、それらは後に発表される「Guidance for a Risk-Based Approach: Virtual Currencies」と「FATF Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governors」の基盤となっています。

以下本節では、特に後の仮想通貨規制に関わる事となる提案事項をいくつか抜粋・要約します。

Recommendation 1

各国は、国内でのマネーロンダリング(ML)とテロ資金供与(TF)のリスクを特定、評価、理解するべきであり、それらのリスクの効率的な軽減を保証することを目的とし、リスク評価を協調的に行いリソースを割く機関もしくはメカニズムを設けるべきである。また、各国は国内の特定非金融業種・専門職(Designated Non-Financial Business and Professions: DNFBP)に対し、MLとTFのリスクを軽減するためのリスクの特定、評価、そしてそれに対する効率的な対処をとるよう要求すべきである。

Recommendation 3 & 4

各国は、ウィーン条約(1988年)とパレルモ条約(2000年)に基づきMLを、そしてテロ資金供与防止条約(1999年)に基づきTFを違法とすべきである。

Recommendation 10

金融機関が匿名の口座や明らかに偽りの名義の口座を管理することを禁止するべきであり、特定の状況下においては顧客のデューディリジェンスを行わせるべきである。これは各国の法律に盛り込まれるべきである。

Recommendation 14

各国は、お金・価値の移動サービス(Money or Value Transfer Services: MVTS)を行う個人・法人が認可または登録されていることが保証されるよう措置をとるべきで、それらの個人・法人は「The FATF Recommendations」が推奨するモニタリングやコンプライアンス確保のシステムの対象となるべきである。そして各国は無免許または無登録でMVTSを行う個人・法人を特定する措置をとり、適切な制裁を下すべきである。

Recommendation 15

各国や金融機関は、以下の2つの場合において生じる可能性のあるMLやTFのリスクの特定と評価すべきである:

1.新たな商品とビジネス手法の発展、

2.既存および新商品における、新たなもしくは初期発展段階のテクノロジーの利用。

Recommendation 31

所轄官庁がMLやTFの捜査を行う際、それらの機関は捜査や場合によっては訴訟などに必要な文書や情報へのアクセスを確保すべきである。これは、人物や施設の捜索、証言の取得、証拠となるものの差し押さえの際に、金融機関やDNFBP、個人や法人が持つ関連情報を提示させる強制的手段を含むべきである。

前述したように、上記の提案事項は全体の一部となりますが、基本的には各国の所轄官庁は金融機関やDNFBPなどの金融・金融関連サービスを行う個人と法人を通じてサービス利用者によるMLやTFなどの脅威を監視し、必要に応じて制裁措置をとるということが重要となり、それらのサービスを行う業者を監督するために免許・登録制度を設けることがポイントとなります。

その他、上記では触れていませんが、金融機関やDNFBPに最低過去5年間分の取引記録の補完義務を課すことやメンバー間での法的な協力の促進などが推奨されています。

なぜ仮想通貨市場には国際的な規制基準がないのか

1990年に発表されて以来、AML、CFT、CPFの規制基準を築き上げ、健全な国際金融システムの維持に努めてきたFATFですが、仮想通貨を巡る規制に関しては少々「出遅れている」と言えるでしょう。

ご存知の通り、初代仮想通貨のビットコインが世の中に出回り始めすでに10年近くが経ちます。この間、特に2016年〜2017年にかけて仮想通貨市場の時価総額が飛躍的に上昇し、市場参加者も急増しました。しかし、ごくわずかの国を除いて、世界的に市場の規制が大きく動き注目され始めたのは2017年12月末頃からでした。

そもそも、FATFが仮想通貨を悪用したMLやTFに注目し始めたのは2014年6月に発表された、同作業部会としては初めてとなる仮想通貨に焦点を当てた報告書、「Virtual Currencies: Key Definitions and Potential AML/CFT Risks」でした。しかし、こちらの報告書では類型の定義と仮想通貨を利用したMLのケースを取り上げるに留まっていて、前節で紹介したFATFの規制基準が適用されるか否かについては、将来的に適用される蓋然性があると記されているだけで明確な方向性は示されていません。つまり、市場で法定通貨と仮想通貨の架け橋となっている仮想通貨取引所がDNFBPに当たるか、そもそも仮想通貨自体が金融商品に該当するかなどは依然曖昧なままとなっています。

こうした中で翌2015年に発表されたのが、仮想通貨市場に対する規制方針が記された「Guidance for a Risk-Based Approach to Virtual Currencies」となります(こちらの規制方針の内容に関しては、【後編】で詳しく取り上げます)。しかし、「基準」とは異なりメンバーは「方針」に従う義務はありません。

2014年〜2015年当時の市場時価総額を考慮すると、現在の2700億ドル〜3000億ドルと比べ、7億ドル〜13億ドル(現在の時価総額のおよそ0.05%)程度しかなかったため、FATFもメンバーに早急な措置を取らせる必要性を感じていなかった可能性は指摘されます。しかし、本来ならばRecommendation 15に従い仮想通貨を巡るリスクをより早い段階で認識し対策を行っているべきでしたが、その後2016年〜2017年にかけて市場時価総額が著しく高騰した影響で、各国が急遽独自の規制政策を打ち出したことにより国際的に足並みの揃わない状態になってしまったと言えるでしょう。

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